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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
その言葉を聴くと、闇太郎は、訝しそうな目つきになって、
「何だと? じゃあ、俺の勇気が、怖くなったというのか?」
そう呟きながらも、まだ、餓狼のような、猛悪な構えは、止めなかった。
武士は、カラカラと笑った。
「いや、大きにそうかも知れぬ。実は拙者、貴様のその、突拍子もない度胸が、惜しくなったのだ。それに、貴様の、必死必殺の気組の底には、ただ喧嘩慣れた、無頼漢には、応わしからぬ、剣気が蔵されているような気がする。貴様、何か、いわく因縁のあるものと睨んだ。一たい、名前は何と言う?」
この言葉の間に、二人の間の殺気は、自から銷沈した。闇太郎の姿は、静かな立ち姿に変り、武士の扇子は、下げられた。
「この場を、見遁してくれるというのは、有がてえが、人の名を聴くんなら、自分から名乗るが、礼儀でしょうぜ」
武士は、白い歯を見せて微笑した。
「成る程、それも理屈だな。それなら申そうが、拙者は、独創天心流を聊か修得した、門倉平馬という者だ」
「独創天心流」
と、闇太郎は肯首ずいて、
「それでは、例の、御蔵前組屋敷近所の、脇田さんの御門人か?」
「うん、今日まではなあ、今日からは、自流で立とうとする、門倉平馬だ。