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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

一六

それは兎に角、貴様こそ、わが名を名乗ったら、名乗るがよいではないか?」

「あっしは、世間で、闇太郎と言ってくれている、妙な人間さ」

「ほう。貴様が、名代の闇太郎か!」

門倉平馬の物に動ぜぬ、不敵な瞳にも、ありありと、驚愕の色が漲るのだった。

一六

門倉平馬は、闇太郎という名乗りを聴くと、ますます好奇心に燃えて来たらしく、闇を通して、ためつ、すかしつするように、相手を見て、またも、呻くように呟いた。

「ふうん、貴様が例の闇太郎か! 大名、富豪の、どんな厳重な緊りさえも呪文で出入りするかのように、自由に出没すると言う、稀代の賊と言うのは、貴様か?」

闇太郎は、飄然として笑うのだった。

「ははは――、あっしだって、何もそんな、魔術使いじゃありません。物を盗むにゃあ、これで相当に、苦労が要るものですよ。誰だって、盗ませるために、蓄えている奴もありませんからね」

そして、ニタリとして、

「第一、今夜のように、捕り方の五十人や百人は、わけなく潜って抜けられても、お前さんのような強敵に、行手を塞がれるときも、ありますからね」

「強敵に、出会ったと言っても、矢張りその敵に、敵意を失わせるだけの、秘術を知っているのだから、いよいよ以て妙な奴だ。