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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
七
御にのみ、罪を被せたばかりか、お取調べの間の御入牢中をいい機会に日ごろから、そなたの母御の容色に、目をつけていた、土部三斎――浪路どのの父御が、そなたの母御を屋敷に招いて、さまざまうまいことを並べた末、操を任せなば、父御の罪科を、何ともいいこしらえて、のがれ得させようとの強面――そのときの、母御のおくるしみ、お歎きは、いかばかりであったろうぞ! 三斎の意をうけた同類が、どのように、母御をおびやかし、おどかしつづけたかも、思うてもあまりがある――とうとう、長崎一の縹緻よし、港随一の貞女とうたわれていた母御は、あたら、まだ成女ざかりを、われとわが身を殺してしまわれたのじゃ――な、雪之丞、それを忘れはいたされまいな?」
「は――い――」
と、雪之丞は、とろけた鉛が、五臓六腑を、焼きただらせるばかりの苦しみを、じっと押し怺えながら、
「おぼえておりまする――母親の、あのむごたらしい死にざまを、子供ごころに、ただ怖ろしゅうながめました晩のことは、ありありと胸にうかびまする」
「そうであろ、いかに頑是ないころであったにいたせ、生みの母御の、知死期の苦しみを、ひしと身にこたえなかったはずがない――かの三斎どのこそ、父御を陥れたのみではなく、母御を手にかけたも同然のお人じゃ――」