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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
八
「おお、どうやら、そなたのところへ、また人らしいが――」
と、雪之丞を見て、いった、菊之丞のこえを耳にしたか、若い衆が、
「若親方、起きておいでですか?」
「はい。起きておりますが――」
と、雪之丞が答えると、障子の外で、
「浅草田圃から、急の用で来たという方が、お見えで――」
もう、来訪者は、何人か、二人にはわかった。
「ここでも、いいだろう」
と、菊之丞が言った。
「では、どうぞ、これへ――」
雪之丞の言葉に立ち去る若い衆――すぐに、入口の戸が開いて、上って来たのが、廊下で、
「若親方、わしだが――」
闇太郎の声だ。
雪之丞が、障子をあけて迎え入れる。
闇太郎と菊之丞――名乗り合ったことはないが、以心伝心、雪之丞を中心にしてもうとうに、其の底まで読み合っている。
「親方、御免なせえ」
と暁明の客は、菊之丞に、ちょいと、頭を下げると、
「雪さん、あの人は、いのちが覚束ねえ――」
と、ひと言。
「えッ! いのちが!」
と、さすがに、美しい女形の面上に、驚きのいろがうかぶ。
「うむ、いままで、張り詰めていた気持の糸が、もうやり切れなくなって、切れかけちまったようにおれにゃあ見えるのだが――」