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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

「どうなされたのでござります! しっかりなされませ」

かぼそい、聴えるか聴えない程のこえで、生気を失いつくした美女はいった。

「わたくしは、人殺し――どうぞ側におよりにならずに――」

闇太郎も、法印も、むこうを向くようにして、拳固で、目を引っこすっていた――苦労を積んだ男たちだから、恋に狂い、恋に死ぬおんなの、世にもあわれな気持は十分にわかるに相違なかった。

「わたくしに、寄らずに――ね――」

雪之丞は、浪路の、細い細い手くびをにぎった――

「いいえ、このお手で、人を殺しなされたとて、わたくしが何でいといましょう――それもこれも、わたくしが、おさせ申したことですもの――」

「じゃ――人殺しでも、いいと、お言やるのか?」

やっとの努力で、彼女はいっていくらか微笑のようなものを、土気いろの唇にうかべるのであった。

一一

「あなたが、どんなことをなされましても、何で、わたくしが、さげすんだり、厭ったりいたしましょう」

握らせた手を、じっと握り締める力もなく、ただ、精一ぱい、思い一ぱい、瞳をさだめて、みつめていたいという、努力だけが、関の山のように思われる、浪路を、雪之丞は、わッと泣いてやりたい気持を、無理に押し怺えて、やさしく見返してやるのだった。