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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

茶碗酒

雪になりそな

夜の冷え

などと、呑気そうな、隆達くずしが、しんしんと、更け渡るあたりの静けさを、寂しく破るのだった。

和泉橋の角まで行くと、橋詰めの火の番所。

破れたところが一つ二つある、腰高障子が、ぼんやり灯影を宿した中に話し声が聞えていたが、平馬の雪駄の響きが耳にはいったらしく、がたりと、立てつけの悪い、開けたての音がして、ぬっと顔を出した親爺――

でも、油断はなく、六尺棒を手にしたのが、左に持った提灯。それを突きつけるようにしてじっと、二人連れを透して見る。

左肩をそびやかすようにした平馬――歩み過ぎた時、連れを先に立てるようにして、

「親爺、――先っきの太鼓は、何の固めだ?」

「へい――」

と、辻番は、提灯を下ろして、

「あれでございますか? 江戸を名打ての大泥棒が、大川屋さんの、塀際にいたとかいうことで、いやもうこの界隈、やかましいことでござりました」

水ッ涕を啜りながら、闇太郎の後姿に、眼が触れたか触れぬか、

「とかくこの頃は、物騒な市中の形勢――お互に、苦労が多いな。まあしっかり、役目をするがいい」

と、いい捨てて相変らずの雪駄の音を、のんびりと響かせて、遠ざかって行く平馬であった。