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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
二五
「ほ、ほ、ほ――とうとう、狼が噛み合いをはじめましたね!」
その声は、もはや、怨霊じみたものではなかった。美しい、女のような、韻きの深い声であった。
「もうお二人が、お互に絞め合った、その手の力は、尽未来緩みませぬぞ! お二人はそのまま御一緒に、遠い、暗い旅にお立ちなさりませ! ほ、ほ、ほ、まあ、そのようにお目を剥きになって――油汗を流されて――お歯を噛み鳴らして、お苦しゅうござりますか――お二人とも――あれ、お息が、すっかり詰まって、咽喉笛から、血が流れ出して来ました。お二人の手は、血だらけでござりますよ――お苦しゅうござりますか? お互に、もっともっと、ぐいぐいお絞めつけになれば、つい、じきにお楽になりますよ。そう、そうもっともっと――もっともっと、きつくあそばせ――ぐいぐいと、お絞めあそばせ。ほ、ほ、ほ――お二人とも、お目が、飛び出しておしまいになりましたね。あれ、お口から血が――もっともっと、指にお力をお入れなさいと申しますに――ほ、ほ、ほ――お二人とも、案外お弱いのねえ――ほ、ほ、ほ――とうとう、身うごきもなさいませんのね――お鼻やお口から、血あぶくが、吹き出すだけで――」