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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
二九
「雪、今夜はのがさぬぞ!」
「十分に――」
さすがに、雪之丞のうしろすがたに、サーッと、凄味が添わる。
「う、うむ」
と、平馬の息が、引きしまって、上段が、正眼に下ったが、
「やあッ!」
と、誘って大刀をきらめかす。
ジーッと、動かぬ雪之丞。
闇太郎が、焦れて、
「太夫、やっちめえ――夜があけるぜ!」
と、言ったのは、あべこべに、平馬を煽ったのだ。
平馬の切っ先きが、案の定、動揺した。
「や、やあッ!」
「とう!」
二人の気合が、一どきに、物すごく、空でカチ合って、重ねて、
「たッ!」
と迫った叫びが、平馬の咽喉をほとばしったと思うと、二尺五寸の刀と八寸あまりの刃が、微妙にからみ合って、赤い火花を、チリチリと、細かく照したが、いつか二人のからだが、入れかわって、ジリジリと押しつけ合う。
と、持って生れた、平馬の根性だ――その刹那、やり損なったと、気がついたのだ。
たッた今まで、敵意に燃えていたが、思い当ると、自分は今夜、闇太郎を斬りに出ただけだ。だのに、強敵に打ッつかって、今更、これは身の上だ――
ハッと、おびえが来たに相違ない。
――退くなら今だ!
と、いう気配――雪之丞に、いつ通じたか、冷たい微笑がうかんで、ツ、ツと、付いて行ったと思ったが、