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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

「御免!」

ビュッと、匕首が斜めに飛ぶと、平馬の頬先へ――

タラリと、流れる血――

――もう駄目だ、逃げられぬ。

と、思い知ったに相違ない平馬、窮鼠、猫を噛もうと、

――ガ――ッ!

と、大刀を突くと見せて、胴に来る。

雪之丞の全身が、飛び立つ鳥のよう、

「えい!」

烈虎の気合――うしろにいた闇太郎さえ、ズーンと、恐怖が、背すじを走るのをおぼえたが、

「うおッ!」

と、いううめきが荒っぽく平馬の咽喉を洩れた。

三〇

門倉平馬の、咽喉の奥から、雪之丞の匕首の一閃と同時に、

「うわあ!」

と、いう、知死期のうめきが洩れて、やがて、上半身がうしろにのけぞったと思うと、腰がくだけて、ドタリと横ざまに朽木のように仆れたが、それと間髪をいれず、今一人の、生きのこりが、われにもなく、磁鉄に吸われたように振り込んで来る。

雪之丞は、かわしもせず、ビュウンと、大刀を、匕首の鍔ぎわで刎ね返して置いて、胸元を一突き――蹴返して、スッと、片入身に立って、あたりを見まわした。

もはや、立ち向って来る者もない。冴えた腕に、処理されたこととて、いずれも、一突き、一薙ぎで、そのまま、うんともすうとも息を吹くものもない。