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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

二一

と三斎隠居は言って、

「この者の物語は、なかなか面白い。正直に申せば、わしだとて、そう言う根性は、無いとも言われぬかも知れぬ。まそっと詳しく、盗みの話をしてくれまいか。とにかく、一盞つかわそう」

と、言って、軽く手を打つのだった。

二一

深夜ではあったが、前髪の若小姓と、紫矢絣に、立矢の字の侍女たちが、盃盤を齎して来た。

三斎隠居は、小姓一人を残して、他の者を去らせると、平馬と闇太郎とに、酒盃を勧めるのだった。

闇太郎は、隠居の言葉までもなく、すっかり寛ぎきった態度を見せていた。

「ごめんなすって、おくんなせえ。この方が楽にお相手が出来ますから――」

と、膝を崩して、長崎風のしっぽく台に、左の肱さえつくのだった。

門倉平馬は、苦々しげ。

彼は相変らず、きちんと坐って、三斎隠居から渡された酒盃を、口に運ぶのさえ、遠慮しているように見えた。

隠居よりも闇太郎が、口を出した。

「平馬さん、土部の御隠居さまは、いって見りゃあ、公方さまの御親類、当時、飛ぶ鳥も落す勢力かも知れないが、こんな夜更けに、あっしのようなお探ね者の泥棒風情を、一緒にお目通りまで、連れて来る程の、御懇意な仲でしょう。