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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

だのにあんたが、そんなにしゃっちょこばっていなすっちゃあ、初めてのあっしが、どうにもならねえ」

「如何にも、闇太郎が申す通りだ」

と、三斎は平馬の方に目をやって、

「そういえば門倉、この深更に、何で、わざわざ訪ねてまいったのだ?」

門倉平馬は、食卓から退るように、畳に両手を下ろした。

「実は御隠居さま、拙者、止むに止まれぬ、武道の意気地により今晩限り、旧師脇田一松斎と別れ、未熟ながら一芸一流を立て抜く決心、――それに就き、御隠居さまの、御配慮を煩したく、深夜ながら、お袖に縋るため、まかり出でました次第でござります」

「なに? 脇田の門を捨てたとか? それはまた何故」

と、さすがに土部三斎も愕きの色を浮べて、

「それはまた、どうしたわけだ?」

「御存じはござりますまいが、今度上方より初下りの、中村菊之丞一座の雪之丞、之が、不思議な縁あって、拙者よりも前かたより一松斎門にて剣技を学んだ者でござります。今宵この者に、旧師が、秘伝奥義の、伝授云々のことあり、拙者へも伝授なきものを、河原者風情に、授けられては、面目立ち難く、当方より、師弟の縁を切り、直ちに、脇田家を後にいたした理由――拙者といたしましては、武芸にては、強ち、師に劣るとも思われませぬ。