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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
――不思議だ! あの目は、わしを憎んでいるらしいが――
さり気なく、じっと見たとき、雪之丞は了解した。
――さようか? それなら、いぶかしゅうも無い。
彼は、そう心にいって、もうその方に注意しなかった。
こないだ、脇田一松斎を久々でおとずれた晩、旧師の口から、あのようないきさつで、師門に後あしで砂を掛けた、例の門倉平馬が、最近、三斎の子土部駿河守家中のために、剣をおしえているということを、聴かされたのを思い出したのだ。
が、雪之丞は、それを余り問題にする必要はない。平馬の技倆と心構えについては、もう知り抜いているし、また、この昔の兄弟子が、一松斎、孤軒、それに菊之丞をのぞいては、天下の何人も知らぬであろう、彼自身の、一代の大望を知覚しているはずもないのだった。
つづまるところ、油断をしてはならぬだけの力のある、一人の敵が、自分がつけ狙う仇敵の味方に立った――と、いうことを、覚悟すれば、それでいいわけなのだ。
雪之丞は、それだけを見届けると、もう、ことさら、三斎隠居一行の桟敷に、特別気をくばりはしないのだった。師匠から、重々言われている通り、たとい、先方から、名乗りかけたとて、舞台の上で一芸をつとめる身が、この場で、相手になることは出来なかった。