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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
雪之丞の目は、涙の奥で、きららかに、きらめいた。
「は」
と、唾を呑むようにして、
「僧形は、土部三斎どの……それに並んだは、大奥にすがっておるとうけたまわる、息女でいられると存じましたが……」
「その外は?」
「その外は、うしろの方に、脇田先生に背きました、例の門倉平馬と申すが、控えておるのが見えました」
と、答えると、師匠は、取るに足りぬと、いうように、頭を振って、
「そのような者は兎に角、そなたに取っての怨敵、一人を除く外はことごとく、あの東桟敷におりますぞ」
心を動かすまいと、あらゆる折に気を引きしめている雪之丞、そう聴くと、思わず、
「おッ!」
と、叫んで、膝を乗り出して、
「して、それは、誰々にござりまする?」
「さ、すぐに、そのように、血相を変えるようでは――」
「おお、あしゅうござりました」
と、雪之丞は、両手をぴたりと突いて、
「お師匠さま、お前をもはばからず、取りみだし、申しわけもござりませぬ。心を平らに伺いますゆえ、なにとぞ、仰しゃって――」
菊之丞は、愛弟子の、思い入った容子を、あわれと見たように、やさしくうなずいて、
「そのように、しとやかに訊ぬるなら、いかにも申してつかわそうが、実は、今日、土部一門の見物があると知ってから、何となく、そなたのための仇敵の一人一人、同座することもないではあるまいと