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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

六

、一行の名前を、茶屋の者よりうけたまわって見たところ、案にたがわず、当節、病気にてひきこもり中の、広海屋主人をのぞく外は、江戸に集まって、昔の不義不正を知らぬ顔に、栄華をきわめておるやから、ことごとく、あの、紫幕ばりの下に、大きな顔をして見物というわけ――」

――う――む――

と、いう、激しい心のうめきを、強いて、抑えるように、雪之丞は、白い前歯で紅い下唇を噛みしめたまま、瞳をこらして、師匠をみつめつづけている。

菊之丞は、いよいよ、声をひそめて、

「土部三斎、隠居して、ますます栄耀の身となったゆえ、もはや、旧悪が暴露するうれいもないと考えているのであろう、一味の奴原が、われとわれから、そなたの面前に、みにくい顔をさらして見せたも、こりゃ、亡き父御の引き合せに相違ない。心をしずめて、めいめいの面体見おぼえるがよろしかろうよ」

「は、して、まそっと詳しゅう、居並ぶ人々の、順、なりふりをお聴かせ下さりませ」

雪之丞は、乾いた舌で嘆願するのだった。

六

菊之丞は、あたりを見まわすようにして、ぐっと、身を乗り出して、

「忘れまいぞ、雪之丞、向って右のはしが、あの頃の長崎代官浜川平之進、左のが横山五助、そして、息女浪路のうしろに控えた、富裕らしい町人が、そなたの父御が、世にも信用の出来る若い手代と頼んでいたに、その恩を忘れ