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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
が、顔を出して、男衆に、何かささやく。
男衆が、雪之丞に、
「今夜、さじきにお見えになっている土部さまから、はねてから、柳ばしの川長で、一献さし上げたいというおはなしだそうですが――」
「え! 土部さまから――」
雪之丞は、刷毛を持っていた手を止めて、相手をじろりとみつめた。
「へえ、例の三斎の御隠居さまが、大そうお讃めになっていらっしゃるそうで――何分、お客さますじがお客さまのすじですから、ほんのちょいとでもお伺いになった方が、よろしかろうと思いますので――へえ」
この瞬間ほど、美しい女がたの面上に、複雑な表情がうかんだことはなかったであろう――
彼は、自分を取りまいて、まるで酔ったように化粧ぶりを眺めている贔屓の客たちを忘れてしまったように、じっと唇を噛み締めて、空をみつめるようにしたが、やがて、決心がついたように――
「ようございます。かたじけなく、お言葉にしたがいましょう――と、土部さま御一同に申し上げて下さるよう――」
「かしこまりました。さぞ、さきさまもおよろこびなさるでございましょう」
雪之丞は、しずかにふたたび鏡にむかった。
彼はだが、もう、さき程のように殺気をあらわしてはいなかった。