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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

菊之丞は、じっと愛弟子をみつめたが、

「何となく心もとないが、しかし、そなたの身性を、あの人々が、気がついているはずは、万に一つも、あるはずがないと思われる。大方、そなたの芸が気に入っての招きであろう。先方が、そう申すのを断わろうともせず、ふみ入って見ようという、そなたの了見は結構だ。が、決して、今夜、その場で暴ら暴らしゅうしてはなりませぬぞ」

「申すまでもござりませぬ。雪之丞、必死にて、みずからを、おさえて見るつもりでござります」

雪之丞が、きっぱりそう言うと、

「それそれ、その覚悟が、大事の前には是非とも入用だ。今夜は、相手が、どのように出ようとも――百万に一つ、そなたの身にうたがいをかけているような気ぶりが見えようとも、必ずいいまぎらして、手荒くしてはなりませぬ」

と菊之丞はいって、

「あまり、気にしすぎるようだが、そなたの、肌身はなさぬ懐剣、今夜だけは、わしにあずけて置いて貰いたい」

ニッコリした雪之丞――

「はい、かしこまりました。お預けいたすでござりましょう。では、御免こうむって、支度を――」

雪之丞は、ざっと、舞台化粧を拭き落すと、かつら下地に、紫の野郎帽子、例のこのみの、雪持南天の衣裳、短い羽織をはおって、あらためて師匠に挨拶した。