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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

雪之丞に対する人々の態度は、ますますいとおしみと、なつかしみに満たされて来た。あるものはひそかな恋ごころを、またあるものは尊敬の念をすら抱くのであった。

三郎兵衛は、ふと、浪路が、うつむいて、白い細い指先で、こめかみを押えるのを見ると、隙さず言いかけた。

「浪路さま、また、お頭がお病みなされてまいりましたか?」

「いえ――少し上気たようですけど、別に左までは――」

と答えるのを、大仰に眉をひそめて受けて、

「それはいけませぬ。大方、芝居小屋から、この席と、つづいてやかましい所に御辛抱なされたので、御気持があしゅうなられたのでしょうゆえ、しばし、あちらで御休息なられては――」

と、云って、三郎兵衛の胸の寸法を、十分にのみ込めぬ浪路が、拒もうとするのを、しいるようにして、

「それ、女中ども、御息女さまをしずかなお部屋に御案内いたしてくれ。少し横にお成りあそばすとじきにおなおりであろうから――」

浪路は、みんなから強いられて、いつまでもいたい、雪之丞の前を立たねばならなかった。そして、連れてゆかれたのは、奥深い、丸窓を持った一間だった。軽い褥に、枕もなまめかしく、ほのかな灯かげが、ろうたく映えている。