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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
隠居は、雪之丞を、闇討ちに掛ようとしたほどの、心肝に徹する平馬の憎悪を知らないのだ。
「お言葉でござりますが、年来のなじみと申しましても、拙者と雪之丞とは、道がことなりますので、さまで親しゅうもいたしてはおりませなんだ」
「これさ、そう申すのが、その方のいつもの癖だ。さ、杯をつかわせ」
平馬は、よんどころなげに、杯を干す。芸者が、雪之丞に取りついで、
「あちらさまから――」
「辱のうござりまする」
うけて、清めて返したが、それで、ひとまず、一座の話頭は、別の方角へ反れてゆくのだった。
やっと、みんなの注目からのがれることが出来た雪之丞、座を立って、手洗場の方へゆこうとすると、あとから、呼びかけたものがあって、
「太夫」
ふりかえると、昔の松浦屋の手代、今は一ばん恨みの深い長崎屋三郎兵衛だ。
「御用でござりますか?」
胸をさすって、小腰をかがめると、狡そうな目つきに、妙な微笑を見せて、
「折り入って、話があるのだが――」
と、あたりを見まわすようにして、
「御隠居の御息女が、あちらで、酔をさましていらっしゃる。話相手に行って見てはくれまいか?」
一七
三郎兵衛から、息女浪路が、別間で休息しているゆえ、話相手にその部屋を訪れてはくれまいかと、突然、思いがけないことを聞かされた雪之丞。