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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
なぞとは、上方をはなれますとき、思いも及ばぬことでござりました」
「何をいやるぞ――そなたは?」
と、浪路は、恨みをふくめた目で見返して、
「わたしが、上さまのお側にはべる身ゆえ、それが仕合せでもあるように、そなたは思うていやるそうな――」
「それが、仕合せでのうて何が仕合せでござりましょう? この日ッ本国中の、女性という女性、それをうらやまぬものが、あろうはずがござりませぬ」
雪之丞はべったりと、居くずれるようにして、横がおを見せるのだった。
浪路は、このたける、しとやかな優人と、世情にうとく、色黒な小柄な貴人とを思い比べて見ることさえ、苦しく、やるせなく、心恥かしかった。
「もうそのようなこと、いわずに置いてたも。さも、わたしが、好んで大奥にあがったものでもあるように――」
雪之丞は、それが耳にはいらぬもののように、ホーッと、深い吐息をして、
「わたくし、おいとまをいただきとうござりますが――」
急に、サッと、浪路の顔いろがかわって、
「なぜ――にわかに、そのような!」
「でも、考えて見ますと、あまりに空おそろしく――」
「何が、おそろしいと、いやるのか――事ごとに、わたしのこころに、針を刺さいでも――」