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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

こんなに、こんなに、手先がふるえていられる。

けれども、やがて、彼の激しい熱情がよみがえった。

――いいえ。わしは、こんな気弱いことでどうするのだろう! この人は三斎の娘なのだ! 三斎の分身なのだ。この人を苦しめるのは、憎い三斎を苦しめることなのだ。わしはどこまでも、土部一家に祟らねばならぬ。この人の身も、魂も、かき裂いてやらねばならぬ。この人を公方さまの側から引き離して、にがいにがい味を、三斎にまず味わせねばならない――わしは、気を弱らしてどうするのだ。

雪之丞は、父親の、あの悲しみと憎みとに燃えた、みじめな最後のすがたを思い出す。

彼は、カーッと、全身が地獄の炎で焼き焦されるような気がした。父親の、まぼろしの顔が物すさまじく痙き攣るのが、まざまざと見られる。

彼は、苛責の毒煙にまかれながら、わが子を呪う――怒る――責める――

――不孝者め! 心弱い、愚か者め! 誓いを忘れたか! この父親の冥府の苦しみを忘れたか! 浮かばれぬのだ。浮かばれぬのだ! 早く、早く修羅のうらみを晴らしてくれぬことには、いつまでも成仏出来ぬこの身なのだ――雪太郎よ! 雪太郎よ! この怖ろしのさまが見えぬか!