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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
彼の主義として出来る限りは、ふところ手で、楽々と大きな富を慾の熊手で掻き込んで暮しているような相手にしか、手を出さぬことにしているので、その点で、三斎隠居のような人物は、なかなか二人とは見当らぬはずであった。
屋敷の横手から、裏にまわった闇太郎、まん中ごろに立ち止って前後を見とおし、ちょいと耳を傾けるようにしたと思うと、
――案の定、家の中が、みんなお客に気を取られていやあがる。よっぽどの珍客らしいが、どれ、ひとつのぞいてやろうか――
と、独りごとをいうなり、ぴたりと、土塀に貼りついて、指先をどこかに掛けたが、いつかからだは、塀内に、ついと、飛び下りている。
塀下に、つつじのこんもりした灌木――その蔭に、ぐっと一度うずくまって、気配をうかがうと、植込みの幹から幹、石から石を、つうつうと、影のように渡って、近寄った軒下。
その軒下づたいに、たちまち辿りついたのが、こないだ通されたのとは別の、書院仕立ての大きな客間の外だった。
耳を澄まして、家内の容子をうかがったが――
――はてな――
と、闇太郎、いぶかしそうに、
――はて、こいつあ、いよいよ以って面白いぞ。