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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

なぞと、例の調子で、心の中につぶやいていたが、

――おッ、何かざわざわしだしたぜ。ふ※、雪之丞が、いよいよ暇乞いをしているな。ところでおれはこれからどうしたものか、折角もぐりこんできたこの三斎屋敷、小判の匂いがそこら中にプンプンして、どうにもこうにも堪えられねえが、といって、なんとなく今夜のうちにあの雪之丞の面が一目見てやりたくってならねえ。どうしようかな、おい、黒?

と、闇太郎は、黒犬の頭をもう一撫でしたが、やっと決心がついたように、

――やっぱりおれは、雪之丞のあとを付け、しおを見て話しかけてやろう。それにしても、上方くだりの、あのなまっ白い女形がなんだって、おれの気持を、こんなに引付けるのか、宿場女郎のいいぐさじゃねえが、大方これも御縁でござんしょうよ。

闇太郎は、書院づくりの客座敷の軒下を、ついとはなれると、またしても、例の蝙蝠が飛ぶような素早さで、ぐるりと裏庭に廻って、木石の間をかけぬけ、見上げるばかりな大塀の下に来て、そこまでついてきた黒犬さえびっくりするような、身軽さで、声をもかけず塀の上に飛上ると、もうその身は往来におりついた。