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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

と、闇太郎は両手で、顔をつるりと撫でるようにして、

「おれが、おまえの身の上を、根ほり葉掘り聞くのは、なる程、無理かもしれねえが、おれの方は、もうとっくに、大泥棒と知られてしまっているのだ。今更、何をかくしだてしても仕方があるめえ。不思議な縁で、こうやって、田圃の中の一ツ家で、秋の夜長を語りかわす仲にもなったのだ。下手な作者のくさ草子を読むつもりで、じゃあ、面白くもねえ昔話をきいて貰いましょうかね」

闇太郎は冷えた茶で咽喉をしめすと、煤けた天井を見上げるようにして、

「つい、いま、口がすべったように、おれの家は、これでも代々御家人で、今だって弟の奴は、四谷の方で、お組屋敷の片隅に、傘の骨削りの内職をしながらも、両刀をたばさんで、お武家面をしているのさ。父親はなかなか仲間うちでも聞えた才物だったとかで、一時は、お組頭にも大変寵愛された身だったそうだよ。なにしろ、筒持ち同心といやあ、御家人仲間では幅のきいた方で、一時は随分暮しむきもよかったのだ。ところが、おれが十七の時、元服のついあとだったが、ちいさいながら呑気な一家に、だしぬけに思いがけない、ばかげた不幸が見舞って来たのだ。