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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
どんな事を、告げ知らせたところが、他人の大事を、歯から外に洩らすような男ではない。
とは、思うものの、さりとて、云い出しかねる話だった。ことによれば、対手の一身一命まで、自分の運命の渦巻に、巻き込んでしまわねばならぬかもしれない――
闇太郎は、例の鋭いかんで、こちらの気持を、素早く見て取ったのでもあろう。
「なあに、太夫、俺たちの交際は今日明日に限ったものでもない。お前も知らぬ土地に来て、当分、苦労を仕様というには、俺のような男でも、いつか又、用になろうとも知れぬ。その時には、これこれだから、急に、お前の命が欲しいと知らせてくれれば、どんな所へでも飛んで行くよ。男同士が、好き合ったからには、遠慮は少しもいらぬことだ」
闇太郎は、そんな事を云って、二杯目の茶碗酒をほすと、フーと息をはき散らすようにして、
「それじゃあ、そこまで送ってゆこうか。朝の早い渡世の人を、引止めてすまなかった」
と、云ったが、ふと、思いついたように、
「折角、此処まできて貰って、何の愛想もなかった代りに、一つ上げてえものがある」
彼は、立上って、次の間にはいった。そして、象牙彫りの仕事場の隅におかれた、手箪笥をゴトゴトやっていたが、やがて、小さな象牙彫りの印籠を持って来た。