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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
そう思うと、腕に覚えは十分ある身、取って伏せたいのは山々だったが、
――いやいやここで腕立てなどしたら、師匠の迷惑は言うまでもなく、殊更、自分は、大望ある身体、千丈の堤も蟻の一穴。辛抱だ――
と、胸を撫でて、
「では、こうして、お詫びいたします程に、お通しなされて下さりませ」
雪之丞は、膝まずいて、白くしなやかな指先を、土の上に並べてついた。
「何に? (では)だと?」
と、浪人は笠にかかって、
「では――とは何だ? 心から済まぬと思うなら、そのような言葉は出ぬ筈だ。許されぬ。堪忍ならぬ」
と、大刀の鯉口を切って、のしかかる。
夕まぐれとは言え、人通りの絶えぬ巷。いつか、黒山のように、人立ちがしているが、如何にも相手が悪いので、雪之丞たちのために、扱おうとする者もない。
雪之丞は、本当に刃が落ちて来たなら、降りかかる火の粉。引っぱずして、投げ退けようとじっと気合を窺いながらも、胸の中は煮えくり返った。
――大道の泥に、手を突かせられ、人さまの前で、辱かしめられるのも、もとはと言えば、役者渡世に、身を落していればこそ、それもこれも、みんな、呪わしいあの悪人共が、親父どのを、悲しい身の上に、蹴落したからだ。