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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
「出ぬか!」
と、突如として、雷霆のように、一喝されて、こちらは、身を隠して、隠密と事を成そうとしつつある、いわば、後暗い彼――
「出ます」
と、思わず、受けて、そのまま差しかわす下枝をかき分け、道に出る。
闇空の下に、細長く、漂亭と、白髯長き老人が、長い杖を突いてすらりと立った立ち姿を、彼は見る――
と、咄嗟に、
――あ、老師だ!
と、瞠目した。
意外にも、それは、こないだ、蔵前八幡の境内で邂逅した、雪之丞に取っては、かけがえのない文学の師、孤軒先生にまぎれもなかったのだ。
逃げることもならず、その場に膝をついて、
「これは老師でござりましたか?」
とうなだれただけで、口がどもる。
「ふうむ、これはこれは、また、思わぬところで、そなたに逢うたものだな?」
孤軒老人も、いくらかびっくりした調子で呟いたが、
「今宵、ちと風流のこころを起して夜の上野山内から、不忍池を見渡してまいった戻り道、ここまで差しかかると、妙な気合を感じたで、いたずらをやって見たが、そなたに逢えるとは思わなんだ。ハ、ハ、ハ、これも尽きせぬえにしというものだな」
雪之丞、孤軒老師が、この付近根岸御行の松に近く住んでいるといっていたのを思い出した。