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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
狭い前庭――
「戻ったぞ」
「あ――い」
と、少年の声が、奥で返事をして、入口の戸があく。
「お客だ。香ばしゅう茶をいれるのじゃよ」
と、目つきの可愛い、クリクリ坊主の小僧に命じて、
「これが、わしの侘住居じゃ。上りなさい」
と、雪之丞にはじめていった。
雪之丞は、ホッとした。老師が、あまり黙り込んでいるので、何となく、咎められているようでならなかったのだ。
老師と、彼とは、炭火が、赤々と熾っている炉ばたに向い合った。
「さて、雪、そなた、あそこで、どのような狂言の、幕を開けようと思っていたのじゃな?」
雪之丞は、キラリと底光りのする孤軒の目から、わが目をそむけた。
「しかし、わしは、よいところに通り合わせたと思っておる――」
と、老人は、刺すような調子で、
「敵を仆すには、その根幹を切らねばならぬ――ああした場所では、とても大物を仕止められようとは思われぬでな――いたずらに、こだわって、大立者を逃すようなことはせぬものだ――雪、そなたは、折角、松枝町に近づいたであろうに――」
「えッ」
と、雪之丞は、おどろかされて、
「三斎と知り合いましたを、どうして御存知でいられます?」