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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

御隠居さまは、別にこれという病気も無いらしいに、気先だけがすぐれぬというているが、おつとめが急に厭わしゅうなったのではあるまいか――なぞと、しきりに心配していられました。あれほどの鋭いお方にも、娘御のお胸の中は、図星を差すことはならぬと見える。長崎屋もいうとおり、そなたが、その美しい顔を見せたなら、忽ちほがらかになるに相違ないに――」

「わたくしに、それだけの力がござりますかどうか――でも、折角のお言葉でもござりますし、明日にもすぐにお見舞に上って見るでござりましょう」

と、雪之丞は、しおらしく受けて、ふと、思いついたように、孤軒入智恵の問題に、探りを入れて見る――

「それとは、お話が違いますが、昨晩、さる御城内お役向の御一座から、お招きをうけました節、あなたさまの御評判を洩れうけたまわって、かずならぬ身も、大そう嬉しゅうござりました」

「ほう、役向の衆から、わしの評判を聴いたとな!」

と、人気渡世の役者以上に、世評が気になってならぬように、大商人が、膝を乗り出して来た。

「それは、また、どんな評判を?」

「わたくしに、江戸では、主にどのような方々の御贔屓になっているか――なぞ、お尋ねでありますゆえ、ここぞとばかり、口幅ったくも、お名前を申し上げました。