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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

わしと長崎屋の間柄とて、今日までの味方、いつ、明日の敵とならぬとも限らぬのだ。その上、当の長崎屋とて、つねづね、わしを出し抜こうとはかっているすじが、見えぬでもないのじゃ」

雪之丞は、やはり、蛇の道は、へびだ――と、思わずにはいられなかった。

長崎屋が、広海屋に対して、どんなに修羅をもやしているかは、雪之丞がよく知っている――それに負けぬ妄念を、広海屋の方でも抱いているのは当然と思われた。

彼は、眼の前に、餌食に餓えた、二匹の野獣をみつめているような気がして、いつもであれば浅間しさに眼を反けずにはいられないのだが、今の場合、二人の姿がみぐるしく映れば映るほど、頼み甲斐のある世の中でもあるような気がするのだった。

「そう仰せられるのを伺いますと何とのう、この世が侘しゅうもなりますが、しかし浮世と申せば、よろず、止むを得ぬ儀とも思われますな」

と、雪之丞、しんみりいって、相手を見上げると、

「心弱うては、此の世界では、乞じきに、身を落すほかはない――それにしても、太夫、よいことを耳に入れてくれましたな、このことは、長崎屋には、当分のあいだ、耳に入れぬよう頼みますぞ」