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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
「左様に御座りますな、何にいたせ、気のつまる大奥、時々はゆるりとなさらないでは――」
と、うなずいて、諸役人との相談ごとを、すぐにまとめたと見えて、三日と経つか経たぬに早速、自宅保養の許可が下りたわけなのだった。
浪路は、天にも上る気持だ。
松枝町の屋敷へさえもどれば、父親はどこまでも愛に目がなく、長崎屋をはじめ、自分の秘密な想いに気がついているものもある。たちまち、恋しい雪之丞に、一目逢わせてくれることがあろうし、さもなくとも、どのような手立てを講じてでも、彼に消息を交わして、逢瀬をたのしむことが出来るであろう――
――ああ、この恋に比べて、これまでのいつわりの栄華の月日が、どのようにつまらない、取るに足らぬものであったろう! 影の影をつかんでいたようなものだ!
しかし、名目が名目だけに、浪路は、屋敷に戻ると、奥の離れにしつらえられた臥床に、さも苦しげに身を横たえて、医師の加療に身をまかせねばならなかった。
だが、その医者も、城内典薬たちの診断と違わなかった。
「お気まかせに、のびのびと御保養が何より――お気うつから飛んだわずらいをお引き出しなさらぬとも限りませぬで――」