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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

と、いうのを聴いて、浪路は、床の上で、膝にひろげていた草双紙を投げ捨てるように、

「まあ、雪之丞が、見舞いたいと申しておると申すのかえ?」

「はい、今夜必ずとのことでござります」

もう、五十をとうに越したような、奥女中の心にさえ、あの絶世の美男のおもかげは、ある若やぎをあたえずには置かないように見えた。彼女は、膝を進めて、

「それにつきまして、お願いがあるのでござりますが――」

「何あに? 願いというのは――」

「雪之丞も、いそがしい間を盗んで、折角お顔出しをいたしたいと申すのでござりますゆえ、お声がかりで、お病間まで、招き入れてやりましたら、どのようによろこぶかわかりますまいと存じますが――」

それこそ、浪路にとって、わたりに船であった。

彼女の瞳は、美しく輝いた。

「そうしてやった方がよければ、まかせるほどに――」

老女は去った。

浪路はうれしさで一ぱいだった。雪之丞が尋ねて来るというのに、不機嫌そうに、髪さえわざと乱していられない。彼女はやがて、懐紙を押してあった金の鈴を、リーンとかすかに鳴らした。

侍女が手を突く、

「お湯が引きたいゆえ、支度を――」