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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
と、浪路は、ぐっと、杯を干して、下に置いた。
雪之丞が、酌をしようとすると、それを、白い手で蓋をして、浪路が、
「わたしは、もういただかぬ――飲みませぬ。そなたのような人と、酒ごとなぞいたしたとて却って胸が蓋がるばかりでござります」
「ま、どうして、急に、そのように、御機嫌を損じましたのか――わたくしが、ここにおりまして、お心地があしゅうござりませば、おいとま申すほかには――」
両手を、畳に下そうとすると、浪路は狼てて、
「太夫、雪さま!」
と悲しげに、
「わたしは、見栄も、外聞も、恥も捨てています。わたしは、いのちさえ賭けているのに――そなたは、何というひどいことを――大川ばたで、しみじみと二人でお話したときでも、わたしのこころは、よう判っていて下さるはずなのに――太夫、ほんとうに、この気持が、おわかりになりませぬのかえ?」
「わかりませぬ」
と、雪之丞こそ、いみじく淋しそうであった。
「わたくしは、しがない河原もの――そしてそなたさまは――」
「芸に生きるお人にも似合わない!」
と、じれったげに、浪路はいった。
「恋に、身分の、わけへだてが、ありますものか! わたしは、いわば、今夜これから、二人だけで、どこの山奥に、落ち伸びようとも、いって貰えば、すぐに、大奥も、親の家も、捨てて行こうとまで思い詰めていますのに――