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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
「では、太夫、わたしが、この場で、死んでくれと申したら――」
浪路の全身は、火のようだ――その躯を、もっともっと抱きしめて貰いたい。
「そなたには、何となく愛がない――わたしを出来るだけ、遠くにはなして置きたいと思っておいでに相違ない」
雪之丞は、ほおっと、深い吐息をして、顔をそむけてうなだれた。
「わたくしの、あれからの気持を、御承知でいて下すったら――」
「あれからの気持とはえ?」
浪路はぐっと、身をもたせて、そむけた顔を追うようにのぞき込む。
「とても、張り合うことの出来ない、しがない身と、天上のお方――それを考えると、同じ人間に生れながら、何というはかないことかと――」
「そなたが、しがないと、おっしゃるのかえ?」
「公方さまと、河原者――これほど天上、地下とはなれた世界が――」
浪路はパッチリと、目をいて、雪之丞の両手を取って、ぐっと顔をみつめるのだった。
「それを言われるのか? 太夫」
「申しますとも――」
「そなたが、そう言うなら――」
と浪路の声は、掠れもつれて来た。
「わたしにも覚悟がある」
雪之丞は、舌の根を噛み切りたい。
――何をわしは言うているのだ。