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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
「いいんですかえ? 松枝町の隠居ッて言えば、公方さまでも、おはばかりなさるってお人だ。その人の庫なんぞを荒したら、並大ていのことじゃあ済みませんぜ。遠島者か、首斬り台にすわらなけりゃあならねえ。そんなところを目がけずとも、本町通りへ行きゃあ、ずうっと、大きな金庫がならんでいるのに――」
「黙っておいでよ、むく犬」
と、ひびきの強い、張り切った女の声が、高飛車にいった。
「公方さまが、はばかったって、おれたちゃあ、ちっとも遠慮することはありゃあしねえよ――どうせ天下のお式目、御法度ばかり破って、今日びをくらしている渡世じゃあないか――おめえは知らず、このおれと来ては、どうせ首が、百あっても足りねえからだ――一度、見込んだら、屹度やる。万一、ほかの仲間に、この屋敷を先き駆けられちゃあ、つい鼻の先に棲んでいる、黒門町の、お初姐御のつらがつぶれてしまうじゃあないか?」
一〇
普請場の板囲いの、暗の影、低いながら、ピチピチとした鉄火な口調で、伴れの男を叱るように、こういい放った女――では、これが、当時、江戸で、男なら闇太郎、女ならお初と、並びうたわれている女賊なのだ。