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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
男は美し、肌も白し、虫も殺さぬ顔をしているから、人殺しの兇状こそなけれ、自来也の再来とまでいわれた人間だった。
お初も、馴染むうちに、いつか、相手の本体を知った。が、知ってしまうと、尚一そう、その性格や渡世にまで愛着を感じないわけにはいかなかった。
――長さんは、盗んだって、悪党じゃあない。困った人達はにぎわすし、パッパッと綺麗に使ってケチ臭く世の中を逃げまわってなんざあいやあしない。いつだったかも、主人の金を掏られたお手代が、橋から飛ぼうとしているのを見て、大枚百両をつかましてやったようなお人だ。
――長さんの足がひょいひょい遠のくのは、吉原の火焔玉屋のお職がこのごろ血道を上げているからだそうな。ようし、それがどんな気ッ風の女か知らないが、両国のお初が、どういう女か、長さんに、ひとつ、とっくり見て貰いましょう。あたしだって、身も軽いが、手足も動くんだ。長さんの、百分の一位なことなら、出来るだろう。
彼女は、そう思いつめて、軽業はわき芸、いつか、掏摸を本業にしてしまった。
勿論、主人持ちの小僧や、年寄りの巾着なぞは狙わない。彼女が狙ったのは、浅黄裏の、権柄なくせにきょろきょろまなこの勤番侍や、乙に気取った町人のふところだった。