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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
――三斎屋敷というから、どんなに用心がきびしいかと思ったら、これはまた、どこもかしこもあけっぱなしだ。くそ、おもしろくもねえ。世の中に、泥棒がいねえわけじゃあないんだよ。人を馬鹿にしてやがら!
お初は木蔭をはなれると、離れのようになっている別棟に近づいて行った。その一棟の横手に、ずっと立ち並んで、文庫ぐらがある。一戸前、二戸前、三戸前――、
彼女は、蔵は望まない――土蔵までを切ろうとは思わない――その三斎とやらの寝間にしのび込んで、机元から盗み出してやりたいのだ。
――その図久入の寝部屋というのは、一たい、どの見当なんだろう?
離れと、母家をつなぐ渡り廊下の近所まで来ると、そのとき、ふッと、何か物音がした。
ハッとして、立ち止まって、身を硬くする。じっと、暗闇に棒立ちになれば、大ていは物にまぎれて判らなくなるのが恒だ。
お初は、じっと突ッ立ったが、もう遅かったのかも知れない――
「どなた? そこなお方、どなた!」
離れの、手水場の、小窓から、白い顔がのぞいて、そうしたやさしい声が掛ったのだ。
お初は、その声が、あまりに優しくほのかだったので、覚えず、