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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
と、彼女は呆気にとられながら、
――この次の狂言の、筋のはなしでもあるのかしら? いいえ、それとは思われない――でも、あの、雪之丞がかたき持ち? あろうことかしら?
妙に胸が、どきついて来るのを押えて、耳をすますと、中では、当の女がたが――
「わたしにいたせば、思い切って、一日も早く、片っぱしからいのちも取ってつかわしたいのでござりますが――父親の、あの長の苦しみ、悶えを考えますと、さんざこの世の苦しみをあたえたあとでのうては、一思いに刃を当てたなら、かえって相手に慈悲を加えてやるような気がされますので――でも、お師匠さま、三斎の娘ずれと、言葉をかわし、へつらえを口にするときの、心ぐるしさ、お察しなされて下さりませ」
この人にだけしか、口に出来ぬ愚痴をも、今夜だけはいえるよろこびに、雪之丞の言葉は涙ぐましい。
「じゃが、心弱うては!」
と、師匠が、
「悪魔にも、鬼にもならねば――この世の望みは、いかにたやすいことも成らぬのが恒じゃ」
「は、わたしとても、その積りでござりますれど――」
お初の、まるで無地のこころにも、いくらか、事の真相がわかって来るような気がされた。