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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

いつもの、薄化粧を、今日は、めっきり濃くして、丁寧に髪を掻いたお初、大好きな西陣ちりめんの乱立てじまの小袖に、いくらか堅気すぎる厚板の帯、珊瑚も、べっ甲も、取って置きのをかざって、いい時刻を見はからって、黒門町の寓を出る。

芝居町のまがきという茶屋の前まで来て、かごを捨てると、奥まった一間に通って、糸目をつけぬ茶代や、心づけを、はずんだが、

「ちょいと、たよりをしたいところがあるから硯ばこを――」

女中が、持って来た、紙筆を取り上げて、小綺麗な、筆のあとでお初は書いた。

折り入ってお話しいたしたきことこれあり候まま、ちょいと、お顔拝借いたしたく、むかし馴染おわすれなされまじく候。お高祖頭巾より

この手紙はすぐに中村座楽屋に届けられた。

六

お初が、そんな境涯に育ったにも似合わず、器用な生れつきで、さして金釘という風でもなく、書き流した手紙が、中村座の楽屋に届けられたとき、雪之丞は、それを読み下して、ジッと考えたが、思い当たることがあるように、目にきらめきを湛えた。

使いの女中に、

「このお女中、背のすらりとした、物言いのきびきびしたお人でありましょうね?」