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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

雪之丞、苦い思いで、杯を干して返して、

「思召しは、ほんとうにうれしゅうござります。もうじき今月の狂言もおわりますゆえ、そうしたら、ゆっくりお目にかかりたいもの――」

「何ですッて! 気の長い!」

と、お初はジロリと、流し目をくれて、

「あたしが、どんな世界に生きている身か、知らないお前でもあるまいに――」

彼女は、別に、声も低めなかった。

「いつ何どき、見る目、嗅ぐ鼻、ごずめずの、しつッこい縄目が、この五体にまきつくかわからないからだなのですよ――明日のあさっての、まして、十日先きの、二十日先きの、そんなことを楽しみにしてはいられないのです――」

じれったそうに、お初は唇を噛みしめて、ぐっと、からだを擦りつけるようにするのだった。

「それは、よう知っているなれど――しかし、そんなに性急にいわれても――」

雪之丞は、そこまでいって、女の了見が、怖ろしいまでに据わっているのを見ると、いっそ正直に、何もかも打ち明けた方が――と、思って、

「実は、そなたは、どう思うていられるか、この雪之丞、心願のすじがあって、女子に肌をふれぬ決心をかためている身――そなたなら、この気持を、察して下さるだろうと思うのでござりますが――」