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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

「へえ――こりゃあ!」

と、叫んだが、また、ひどく、なつかしくもあるように、

「まあ、何と珍しい――どうした風の吹きまわしで――親分、あっしゃあ、合わせる顔はねえのだが――」

と、いいざま、土間に、殆んどはだしではね下りて、びっくりする婆やには見向きもせず、格子の止め釘をはずして、ガラリとあけて、

「あねはんはいませんが、さあ、ずっと、お上んなすって――」

「そうか、じゃあ、けえるまで、またせて貰おうか――実は、ちっと、姐御と、折り入って、話があってな――」

闇太郎、手拭で、裾を、パンパンと叩くと、吉の案内で、茶の間に通る。

見まわして、

「ほう、いい、おすめえだな? 姐御のこのみが見えて、意気で、しっとりと落ちついているな」

むく犬の吉、婆やをたのまず、自分で、小器用に、茶をいれてすすめて、

「ひとしきり、御厄けえになりながら、顔出しもしませんで、どう、まっぴら、御免なすって――」

「なあに、いいってことよ。おれもつき合い下手で、このごろ、だれにも逢わねえ――御無沙汰はおたげえだ。それにしても、吉、美しい親分を持って、さぞ、働き甲斐があるだろうな――」

「御冗談を――」