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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

お初は、解せぬらしくつぶやいて、美しい、切れの長い目を、きらりとさせて、

「親分、何か、間違いじゃあありませんか? わたしは、今のところ、別に大きな仕事ももくろんではいませんが――」

と、言って、ニタリと、異様に微笑して、

「実はねえ、親分さん、お初もこれで、やっぱし女で、柄にもなく優しい苦労をおぼえて、いまのところ、渡世の方に御無沙汰さ」

闇太郎は、そういうお初の、淫らな、あでやかな笑いを見ると、あやしい悪寒のようなものを覚えた。

――なるほど、この女、無宙になっていやあがる。とりみだしていやあがる――おれほどの男の前で、ぬけぬけと、心の秘密をのろけるまで、魂をぶち込んでいやあがる――雪之丞が、震え上るのも無理はねえ――

「姐御、お前の、そのやさしい苦労というのが、どんなものか知れねえが、ぶちまけて言えば、おれの知っているある他所のものが、大きな望みを持って、この江戸に足をふんごみ、いのちがけで大願を成就させようとあせっているのさ。ところが、ある人の耳に、誰にも知られてはならねえ大望が洩れて、敵方に、それが筒抜けになりそうになり、今のところ、大迷惑さ。