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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

孤軒老師のおしえで、広海屋と長崎屋を、深刻に噛み合せるために計った、あの策略が、どんな功を奏したか、もう結果がわかるころであった。

雪之丞は、否やなく、閉場をまちかねて、かごに揺られて、例の根岸の、ひっそりした鶯春亭の奥座敷に、広海屋の席へ出た。

広海屋は、今夜、いつもより一そう福々しく、しかも、細い、象のようにまぶたの垂れた目が、生き生きと、きらきらと輝いているようだ。

「さあさあ、これへ――堅固で、相変らずの高評、お目出たいな」

と、富豪は迎えて、

「ときに、今夜、楽屋に、思いがけぬものが届いたであろうが――」

雪之丞は、広海屋の、極上の笑顔を見て、

――さては、あの贈りものの主、この人だったのだ――

と、思い当った。

「は――」

と、何か、答えようとすると、押っかぶせて、

「いや、つまらぬもので、礼には及ばぬが、実は、あれは、そなたへ、お礼と言い、かつは、心いわいのしるしじゃ。こころより、受納にあずかり度い」

「お礼と、おおせますと?」

雪之丞――例の一件に関してのこととは思ったが、気がつかぬふりで――

「何やらわかりかねまするが――」

広海屋の声は、急に低く低くひそまった。