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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
「なあ、あの、悪いことというたら、夢にも見たことのないような松浦屋の旦那を、魔道に落し、骨をしゃぶり、血を啜って、一家退散させ、気ちがいにまでしたのは、どこのどなたじゃ」
と、長崎屋は、一度はためらったものの広海屋の悠々とした表情を見ると、煽られ、唆られるように、べらべらとこんなことをしゃべり出す。
広海屋は、軽く、冷たく笑った。
「ふん、そう言うと、わしばかりが悪人のようなれど、その松浦屋に、子飼いから奉公して、人がましくして貰うた癖に、主人に煮湯をのませたのはどなただったかといいとうなる――が、のう、長崎屋さん――」
肥満した大商人は、迫らない調子で、むしろ、逆におびやかすかの如く、
「まず、あまり、そういうことには触れない方が、お互のためであろうが、――長崎の昔ばなしには、かかわりのあるお方が、外にもたんとあることだ。そのようなことを口外したら、そなたのためにもなりますまいぞ」
長崎屋は、一そう焦ら立たずにはいられないのだ。
「いやいや、もう、こうなれば、どんなお方も怖うはない――わしは、大ごえで、今どき世にはばかる、えらい権威を持たれた人も、昔はこれこれの悪事に一味して、罪ない町人を、浅間しい目にあわせた――今の栄華も、不義の宝ゆえこそじゃ――と、世間一帯に触れてまわるわ」