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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

それに、人を、なめくさって、どうだ、この俺が、飯を運んでやるたびにまあ、お気の毒さま、大の男にお給仕をして貰って――なんて、言いながら、わざと立て膝をして、水いろの湯文字なんぞを、ちらちらさせて見せやあがる――俺だからいいが、生ぐさい坊主であって見ろ、あいつの流し目を食っちゃあ、ちょいと怺え性が、なくなろうってもんだ――

と、言って、また、ごくりごくりと、煽りついたが、

――いや、この俺さまにしたって、まだ四十をほんのちょっぴり越したばかりだ――あれほどの女と、たった二人の荒れ寺ずまい――闇の兄貴の睨みが怖くなけりゃ、どんなことになるかも知れねえのよ。

島抜けの法印、厚い、紅い舌を出して、物ほしそうに、ぺろりと舌なめずりをして、

――こうやって、たった一人、しょうことなしの独酌に、何のうめえ味がある――これが、美女のお酌と来てごろうじろ。何の肴がなくッたって、甘露、醍醐味、まるッきりうまさが、違わあな――そりゃあ、俺だって、何も、あいつをどうこうしようッていうんじゃあねえ、酌をさせるだけなら、別にだれから叱られるわけはねえと思うんだが――

島を抜けて来たほどの彼、前世の露見を恐れて、身をつつしんでいるのだが、今夜は、少しばかり、とろんこになっていた。