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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
ことが出来たら、雪さんが狙う敵の中で、第一ばんの大物、三斎隠居の屋敷に駆け込んで、何もかも、聴き知っただけ、あらい浚いぶちまけてやると、そう心に誓ったじゃないかね! それなのに、今になって、ああしたら、こうしたら――なぞと、迷っているこたあありゃあしない。しっかりおしよ、黒門町の姐御!
お初は、イヤというほど、自分の頬ぺたを撲ってやりたいようないらいらしさを感じて来た。
――ほんとうだよ、女一匹というものは、しかけた恋が叶えばよし、叶わぬときは、相手の咽喉笛を食い切ってやるのが掟なんだな。
――ケン、ケン、コンコン!
淡月が、冷たく冷たく射しかける夜の杜の、木立のふかみで、淋しく、凄い、狐の泣きごえだ。
お初は、寒そうに、肩口をふるわしたが、
――そうだとも、お初、おめえは、わが身を捨てても、この恨みを晴らさなけりゃあならないのだ。わが身を怖がっていちゃあならないのだ。自分で自分を、地獄のどん底にほうり込む気になって、その人をも抱き込んでいかなけりゃあならないのだ。この世で叶わぬ恋の夢を、針の山のぼりの道中で、晴らさなけりゃあならないのだ。お前はこれからどうあっても、この皺苦茶の扮装のままで、三斎屋敷に駆け込まなけりゃあ駄目なのだよ。