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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
自身番の前まで来ると、お尋ね者の癖に、元気のいい声で、
「かご屋さん、御苦労さま――」
足から、器用に下りながら、
「取ってお置きな」
小銭を、荒びた掌に落してやって、乾いた下駄の響きを立てて、つと、横町に曲る。これを真直ぐゆけば、三斎の角屋敷の横に出るのだ。
コロコロと、小走りに、うつむき加減にいそいでゆくと、これまで見た事のない、真新しい板塀がある。
――おや、何だろう? この家は?
足がおのずと止まると、表つきは武術道場らしい武者窓を持った建て方だ。
――なあんだ、やっとうの、稽古場か。
呟いて、行きすぎようとするときだった――三斎屋敷の方角から、一人の武家が、月光に、長い影を落してやって来たが、擦れ違いざまに――
「お、そなたは――」
お初も、足を止めて、
「おや――あなたは――」
二人は、薄い月の光で、顔を見合せた。お初も、武家も、ハッと何か、思いあたることがあったに相違ない。
「あのときは、暗がりで、はっきりお顔は見えませんでしたけれど――もしや、こないだ、山ノ宿の田圃で、危ういところを、お助け下されたお方では――」
お初が、口を切った。
相手は、うなずいて、