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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

「たしか、闇太郎、御用と言ったように聞えましたが――」

「へえ、何だか、そう申したようでございましたね」

と、後棒が答えて、蔑むような口調になって、

「なあに、あなた、この辺の見廻り役人や、目明し衆が、十人十五人で追っかけたって、闇太郎とも云われる人を、どうして、捕っつかめえることが出来ますものか――」

その調子に、何となく役人に追われる者の方に、却って同情が濺がれているのを感じながら、心を残して雪之丞は、しとやかに駕籠に身を入れる。

脱ぎ捨てた雪駄を、ぽんと塵を払って中に突っ込んだ駕籠舁――肩を入れて、息杖をぽんとついて、掛声と一緒に小刻みで走り出す。

雪之丞の胸の中は、今の、闇太郎問題で一杯だ。その人物は、たしかに、つい今し方、この駕籠を、自分のために、呼びに行ってくれた、あの若い衆に相違ない。しかもそれが、この駕籠舁たちにさえ、すっかり名前が通っている、名うての悪者らしいとは――

「それで、――若い衆さん――」と、雪之丞は、訝しさに訊ねかけざるを得ない。

「その闇太郎というお人、――一たいどんな方なのだね?」

「では、ご存じがありませぬか――? あなたは、江戸が初めてだと見えますね?」