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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

雪之丞は、自分に言った。

――門倉平馬の力で、まとめられるほどの敵が、何百人あろうと、それに打ち負かされるようでは、わしの悲願が、成し遂げられようか? わしの敵どもは、もっともっと力の強い人達だ。

タ、タ、タ、タ――

と、小刻みに、そういううちにも、かごかきの足どりは進んでゆく。

雪之丞は、乗物の四囲に、鋭い刀尖が、青い星の光りを宿しながら、つきつけられているのを感じている。

――抜ければ抜けられる。

と、彼は思う。

彼が、かごの中で、激しく身じろぎしたとき、ぐうっと、通して来る刃は、多くて四本――その四本の刀尖の交叉する一点を中心に四ツの空間があるのだった。彼ほどの身のさばきのすばやい人間に取っては、その空間は、あまりに大きすぎる位の安全地帯。

そして、その安全地帯に、一度身を置いた次の瞬間には、彼の全身は、乗物の外に飛び出してしまっているだろう。

が、彼は、動かなかった。騒がずに、平馬の目の前に、この身を運んでゆかせたかったのだ。

六

雪之丞を載せたかごは、なおもそうそうと、夜の北風が吹く、田圃みちを進んでゆく。

雪之丞は、心の用意が済んだので、水のように澄み切った気持で背をもたせたまま、目を半眼に閉じて、揺られるままに身を任せている。