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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
「出い! 雪之丞!」
と、命令が、ふたたび叫ばれた。
「ほ、ほ、ほ、ほ!」
と、美しい、朗かにさえひびく声で、雪之丞は笑った。
「これは、まあ、とんだ御念の入った、御案内ぶり――」
そして、冷たい調子で、
「わたくしは、まだ、わが手で、自分の履きものを、揃えたことがありませぬ。かご屋、はき物を――」
「何をつべこべ!」
と、刀尖をつきつけている青年武士が、上擦った調子で嚇した。
「たわ言を並べおるうちに、首が飛ぶぞ。それが怖ろしくば、早う出い!」
「ほ、ほ、首が飛ぶは、怖ろしいに相違ありませぬが、はだしにては、下に下りられませぬ」
「黙れ! 出い!」
「こなたの申すこと、おきき入れなくば、わたくしも、おいいつけを、おことわりいたすばかり――決して、この乗りものの外へ、手向いなしには出ませぬ!」
雪之丞は、相変らず、笑みさえふくめた声でいった。
若侍は、怒った。
「おのれ、血迷うたか! 嚇しではないぞ――この刃は――」
「さようでござりましょうとも――立派なお武家が、役者風情をお連れなさるのに、よほど怖うのうては、これ程のお支度はなされますまい」
七
落着き払った、雪之丞の嘲笑に憤怒を煽り立てられたように、青年の一人が、