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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
しずかに拾って、雪之丞、膝の上でまさぐったが、
「だから、何度おかかりになっても、同じことだと申し上げておりますのに――」
「ううむ」
憤怒と屈辱とに、ドス赤くなって、たまらず刀柄に手をかけて、鯉口を切ろうとする――仲間の剣客も、そのうしろに、今は、いつでも抜き放とう気勢――
そして、当の、雪之丞の背後、左右には、すでに、抜き身の若侍が四人、退路をふさいでいるのだ。
これをしも、袋のねずみといわずして、何であろう。
たった一人、縁側に居のこった平馬、白目を、ギラギラと、すさまじく光らせて笑った。
「雪、虚勢は廃せ。なあ、貴さまと、拙者、あの一剋の一松斎の門では、一つ鍋の飯を食うたことがあるのだ。肉をくらっても、あきたらぬ奴と思ってはいても、そうして、逃げ場を失い、天にも地にも、途方に暮れるのを見ると、あわれになる。どうじゃ? もうこれまでの生利きな気性を捨てて、拙者に詫びを入れ、酒席の酌でもいたすというなら、御一統に、拙者から、いのち乞いを願ってもつかわすぞ。どうじゃ?」
「それはまた、御親切な――わたくしも事は好みませんが、お詫びというて、何を詫びたらいいのでありますえ?」